続「海老沢前NHK会長の弁明」

さて、話題はNHK番組の政治介入問題に移るのだが、その前に「コンプライアンス委員会」ができた経緯について前会長は以下のように説明した。「どこの組織でも怪文書は出回るものです。内容の多くは人事からむ話です。NHKは能力主義だから、落ちこぼれてしまい、嫉妬心から怪文書を書く人もいる。調べると大半は誹謗中傷でした」
つまり、コンプライアンス委員会は怪文書対策のたれこみ機関として誕生したらしい。
「チーフプロデューサーの使い込み事件をきっかけに、公金の監査体制の強化とともに二重三重のチェック機関をつくりました。コンプライアンス委員会もそのひとつで、通報窓口を法律事務所にも設置しました。これまで17件の通報がありましたが、ほとんど問題にするものはありませんでした。そのうちの一件が、いわゆる従軍慰安婦の番組についてでした」
前会長は長井プロデューサーが番組の政治介入を通報したにも関わらず、ろくに調査もせず問題なしとしてゴミ箱に投げ捨てたことになる。もっとも、たれ込み機関というものは権力者が悪用しようと思えばいつでもできる。自分に不都合な問題は闇から闇に消し去ることはいたって簡単だ。番組の政治介入という重大な疑惑であればあるほど闇のまた闇の世界になることは想像に難くない。なにしろ、前会長は政治介入をさせた張本人(共犯者?)なのだから。
「私が問題になっていると知ったのは2001年1月葬儀参列中に右翼がNHKにきて騒いでいると聞きました。」つまり、放送前に番組内容を知った右翼がNHKに抗議にきたという知らせだ。抗議に来た人々はどういう手段と方法で放送前に番組内容を知ったのだろうか。「番組に対する批判は実際に放送されたものに対してすべきだ」と前会長自身もこの対談で認めている。「放送後3月の国会で質問がでました。(発見の会注——質問に答えて)放送前には、公平なのか、公正なのかは当然自主的に判断します。」
会長は右翼の抗議があったことを知ってから何が起こっていたかについては語らない。「放送前に現場の編集責任者がこれはとても公平ではないと判断したので、放送法32条2項に則って、一部を削るなど手をいれ、編集して放映しました。放映前に編集したりカットしたり、追加したりするのは当然です。取材を受けた方が自分の意見がカットされたから、けしからんというのは違うのではないでしょうか」とあたかも日常的な製作過程で自主的に改変した。従って政治介入はなかったと弁明している。
しかし、事実は番組内容を批判する人々、団体がNHKに抗議を行なった。管理責任者が一定改編を命令し、さらに取り直し、取り足しを現場に強制した。そしてまがりなりにも番組を完成させた。この段階で番組はまだその制作意図を首の皮一枚残されていた。その後、NHK管理責任者はこれでよしと思い、国会議員や閣僚に改変後の番組内容を説明にでかけた。ところが甘くはなかった。「これじゃだめだ。もっと公平公正にやれ」といわれる。そこで、NHKにもどり、政治家の指摘に従ってさらに番組を改竄して放送したのだから、通常の編集とは明らかに違う。つまりNHKの管理責任者が業務命令で行った行為だ。その最高責任者で編集の最終決定権を持つ者は前会長だけなのだ。その最高責任者の指揮命令で、制作意図とはまったく違う番組内容に改竄して放送したことが真相に思える。そこで、川上教授はすかさず、突っ込む「朝日新聞記者の松井さんは先鋭的な人としられている。没にする選択もあったのではないですか。昭和天皇を強姦罪で有罪とするような法廷を取り扱うこと自体、公平公正なのでしょうか」海老沢「そういう批判ならいいんです」
そうでしょう、前会長とおなじ意見なのですから。ここで話題は急転する。
「しかし、なぜ四年も経った今年一月になって朝日新聞が取り上げ、チーフプロデューサーが記者会見したのか。」(注闇に葬ったはずの事件をーーなぜ今になって)
「勘ぐりなんでけれども、取材相手からNHKが訴えられ、一審ではNHKが勝ったけれど、4月に事実関係の審理をすることになった。そのキャンペーンと見るべきなのか。私にたいする誹謗中傷がある中で、会長辞任にむけ一役買おうとしたのか。そこはわかりません。(政治的な圧力があったという)報道された事実関係はまったく違うのです。朝日新聞には意図的で事実関係を曲げた記事だと抗議しています。当事者である安倍さんと中川さんも否定しています」
当事者が否定するのは当たり前。しかし、安倍さんはNHK関係者とあった事実は認め、さらに「公平にやってください」と発言したことまで認めています。しかも、安倍さんは拉致被害者問題で闘うわたしを貶めようとする陰謀とまで発言しています。政治介入の事実はなかったことにしようとして自分たちを被害者に見立てる両者の言い分は奇妙に一致しているとは思いませんか。
そこで、また
川上教授「政治部OBらが発言力を強め、政治家の意向をくんで製作、編集現場に押し付けたりすると内部の声が私の耳にも届くようになったと川口元会長が朝日新聞にコメントしているが」
海老沢「朝日の記事がねつ造かどうかが問題の焦点なのに、これは問題のすりかえだと思います」とした上で弁明を始める。どう見ても、川口コメントは問題のすり替えどころか、政治介入が日常的に行われていると言う裏付け証言に他ならない。
海老沢「NHKは国会中継や政治討論、憲法問題などの番組をつくる。政治家から完全に距離を置けとなど言われたら、NHKは何のための報道機関なのか。NHKは政治的な公平さを保つために政府ではなく国会が予算の決定権を持っています。たとえば、NHKの株主は国民です。株主総会にあたる国会に出てくる国会議員に経営内容などについて説明するのは当然だしーーーそれを付合ってはいけないということになれば、報道機関としてのNHKの経営は成り立ちません。」
株主が国民まではいいが、国会が株主総会?この程度の認識でジャーナリストを名のらないで欲しい。会長の論理では国民の世論は多数党できまるということになる。世論調査は瞬間風速であり、多数党、政権党が世論を代表するものではないことは自民もよく知っている。NHKの国会討論がしばしば議席数に応じて発言時間を配分することがあるが、それは報道機関として公平ではない。報道機関は政権を監視し、権力の暴走を防ぐことが公共機関の役割ではないか。公平とは対立した意見に中立な態度を取るのではなく、権力から独立して国民の立場で公平に報道するということである。その社会的公約があるからNHK公共放送の資格を与え、国民が委託しているのである。海老沢前会長の公平論理ではNHKは公共機関ではなく政権党の広報機関になるではないか。その立場をないがしろにして政治家と癒着して政府の情報を垂れ流すだけでなく、川口元会長は政権党の意向に添って番組内容に介入する行為をとがめているのだ。NHKが政治家と完全に距離をおけなどとは誰も言っていない。
川上「それにしても政治家と接触してはならないという批判はおかしい」
海老沢「そうなれば日本は昔のファシズムに戻りますよ。私が常に重視しているのはバランス感覚と常識です。ニュースで最も難しいのは、何を取り上げるかの判断です。」
この感覚ってどう見てもジャーナリストではなく支配者の感性に満ちている。政治家を取材するのは自由、公平に接するのも自由、どういう態度で取材するかが問われているのだ。
川上「そうした点で今回の一連の報道はどうでしたか。」
海老沢「だいたいは意図的でした。意図的でないと従軍慰安婦問題もあんな取り上げ方をしないと思います」
この人が編集権の最終決定権を保有している限り、政府批判記事などは「バランス感覚がない」「取り上げるな」ということになる。さて、ここから本領発揮、権力者節が始まる。海老沢「日放労はチーフプロを支持する声明をだし、経営陣の総退陣を求めましたが、記者会見に同席した弁護士は朝日新聞の事実上の顧問弁護士と言われています。(注朝日はNHKの敵だから敵の弁護士と同席するような会見の発言は信用するなという意味を言外に含めている)」
「この混乱に乗じて出世を狙う幹部が後押ししたのではないかと見る人もいる。次はお前が会長だからとおだてられと言う憶測も伝え聞きますが、自己弁護になるので、私からいう話ではありません」
こういうのを下々では「げすの勘ぐり」という。
「自分たちがマスコミの雄だという意識のある人々(注朝日のことか)がNHKを目障りにおもい、弱体化を図ったと言うみかたもあります。最初から何らかの意図をもったキャンペーンのように思えてなりません」
川上「今回の不払い急増で公共放送の意義も問われています」
海老沢「大正14年からの受信料制度だが検討すべきと思う。対価主義にすべきという指摘もあります。BSにスクランブルをかけて有料化すべきだという提起もありました。そのときには私も発言したい」
川上「そうやって支える公共放送の必要性とはなんでしょうか」
海老原「災害や大事件などの緊急報道」
「伝統文化の保護継承」
「健全な民主主義の発展に寄与(国会中継・選挙報道)」
「この三つが公共放送の使命です。このことを国民のみなさんに、ぜひ理解してもらいたい」
以上が海老沢前会長の弁明です。
善良なる市民、声なき声、公序良俗、健全なる民主主義
権力者からよく発せられる耳慣れた言葉の響き、政治権力からの独立は一言もなし。
ともあれ、日常の業務として政治介入を認めた点を評価して、権力と身も心も一体化した海老沢前会長の辞任を祝福したい。退職金は払う必要なし。
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by daisukepro | 2005-04-21 08:11 | マスコミ


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