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象徴天皇制と靖国参拝


サマーワからオランダ軍が撤退して、イギリス軍とオーストラリア軍が自衛隊の護衛をつとめることになった。イギリスとサマーワは過去にも争乱があったのでイラク人とイギリス軍は相性が悪い。日本の政局は郵政問題で騒然としているが、サマーワからは目が離せない。後日、現地情報をお届けします。
今日は同好会会員から投稿(発見情報)がありましたので、転載します。

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論壇時評(05.7.27朝日新聞・夕刊)

金子 勝・慶応大学教授

「靖国」言説の構図が変化している。憲法改正を主張してきた読売新聞グループ本社の渡邉恒雄会長の発言が象徴的だ。渡邉は、「靖国問題・妻の介護・巨人軍会長就任…すべてを語ろう」(オフレコ! 第1号)において、「(靖国参拝に)反対どころか、僕は拝みもしないし賽銭もあげない」と言い、「あの軍というそのもののね、野蛮さ、暴虐さを許せない」と述べている。
 その一方で、櫻井よしこ、田久保忠衛vs. 劉江永、歩平「靖国参拝の何が悪いというのだ」(文芸春秋8月号)は、情緒的で内向きな議論を展開する日本側論者が、中国の歴史学者によってごく基本的な事実認識の誤りをたしなめられており、読む者を哀しい気持ちにさせる。
 たとえば、田久保は「(靖国問題は)日本人の『心』の問題であり」、「これは何千年も昔から日本人が抱いてきた信仰」だとし、「日本では亡くなった人はみな等しく神様で、死者の魂にA級戦犯とかB級戦犯といった区別をし」ないと発言するのに対し、歩は「靖国神社に祀られているのはすべて戦没者であり」「同じ戦没者でも、敵国の兵士は入ることができない」と指摘し、劉も「靖国神社はそれまでの日本の伝統的な神道とは異なる『国家神道』の神社」だという。実際、靖国神社は天皇=国家という原理に立ち、基本的にそれに逆らった者は祀られていない。
 さらに櫻井は、首相による靖国参拝の過去の事例をあげて「中国にとって歴史認識問題とは……政治カードにすぎ」ないと批判するのに対し、歩は「八五年の中曽根首相の参拝」を問題にしたのは「A級戦犯の合祀後の八月十五日に行われたはじめての『公式』参拝であった」からだと述べる。つまり中国は、靖国神社へのA級戦犯合祀と首相の「公式」参拝だけを問題にしているのだ。

 首相のボピュリズム

 実際、首相として最初に公式参拝した当の中曽根康弘元首相も、「小泉内閣になってから、東アジア政策と戦略については、中国に非常に後れをとっている」としたうえで、小泉首相の靖国参拝を「要するに、ポピュリズムなのだ……日本の総合的主体性を持った姿はない」と批判する(「小泉君、外交からボピュリズムを排除しなさい」中央公論8月号)。
 当初、小泉首相は、隣国の反発を受けて、靖国神社とは別に新しい国立追悼施設の建設を検討させた。01年12月にできた「追悼・平和祈念のための記念碑等施設の在り方を考える懇談会」(追悼懇)は、約1年かけて報告書を提出した。
 そのメンバーだった御厨貴と田中明彦は、現実主義から靖国参拝に否定的だが、追悼施設の建設時期については意見が異なる。御厨は、「政治的なカードを多く持つためにも、追悼施設の建設を今一度検討すべき」だとする(坂元一哉・松本健一、御厨貴「A級戦犯合祀が再燃させた戦争責任問題を検証する」中央公論8月号)が、田中は、今は「この施設は中国とか韓国から言われて謝るためにつくったんじゃないかと言われ」「不健全にシンボライズされる」ので難しくなったという(田中明彦・姜尚中「『靖国』の土俵から降りなければ展望は開けない」論座8月号)。

「戦死者」想定する施設

 だが、この問題は対中外交上のカードにとどまらない。高橋哲哉『靖国問題』(ちくま新書)は、「国家が『不戦の誓い』を現実化し……『過去の戦争』についての国家責任をきちんと果たすこと」なしには、この新たな国立追悼施設は「第二の靖国」になりかねないと批判する。しかも、この施設は歴史認識の問題だけではすまない。それは「自衛隊から新たな『戦死者』が出る事態を予想」しており、「海外派兵恒久法や九条自体の改定が政治的アジェンダとなりつつある」状況に対応しているからだ。
 事実、イラクの状況は悪化しており、自衛隊貞から「戦死者」が出る可能性を否定できない。グレン・フランケルとジョシ・ホワイト両記者「軍削減計画を載せた英国機密メモ」(7月11日付ワシントン・ポスト紙)は、「英国防相の機密文書」に基づいて、来年半ばに向けてイラクに駐留する米英両軍の削減計画が作成されていると報じているが、小泉政権は事態を放置したままだ。
 靖国神社へのA級戦犯合祀と首相の公式参拝を支持する者の多くは、憲法改正を主張する。だが、情緒的な議論が強まる中で、日米の研究者によって、天皇制存続に関する米国側資料が次々と発掘されている。

 米陸軍省の機密文書

 加藤哲郎は、CIA(米中央情報局)の前身OSS(戦略情報局)の機密文書の中から、「一九四二年六月三日付陸軍省軍事情報部心理戦争課『日本計画(最終草稿)』」を発見した。そこには「戦争に導いた日本の軍部と『天皇・皇室を含む』国民との間にくさびを打ち込み」、天皇を「平和のシンボル」として利用する計画が書かれている(『象徴天皇制の起源 アメリカの心理戦「日本計画」』平凡社新書)。その後、東京裁判は天皇の戦争責任を免罪し、軍部・指導者たちをA級戦犯として処罰した。もし東京裁判を見直し、「押し付け憲法」を改正しようとするなら、天皇の戦争責任問題を含めて全てを見直す必要が生じてくる。
 ところが、いまや現天皇は象徴天皇制を規定した「押し付け憲法」を順守し、戦争中から米国が意図したとおり「平和のシンボル」たろうと努めている。事実、現天皇は靖国神社を参拝せず、日の丸・君が代を強制しないようにと発言し、第2次大戦の激戦地サイパンを訪問した際にも、韓国人や沖縄出身の戦死者の墓参りをした。気がつけば、皇室が憲法改正の最後の歯止めになっている。何という歴史の皮肉であろうか。
by daisukepro | 2005-08-08 10:27 | 憲法


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