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桜の花の満開の下で

桜の花の満開の下で

庭に桜の古木が2本立っている。高さは10メートルほどある。
我が家は武蔵野丘陵の中腹にある。東北に位置しているので日当たりは悪い。桜だけは毎年咲き、対岸のマンションの窓からもよく見える。建築家の義弟夫妻が久しぶりに訪ねてきた。長男一家がロサンゼルスの物産会社に就職して渡米したばかりだ。こちらの息子夫妻は仕事で休みが取れず欠席、娘二人が参加して昼間から花見酒になった。今年は気候が不純なせいか首都圏の染井吉野は見事に咲いた。
桜の花の満開の下で_c0013092_23173742.jpg庭の梅が遅れ、椿と山吹と桜が一度に咲くにぎわいになった。食事が終わる頃、南の風が吹いて窓外を花吹雪が舞った。建築家夫人が「桜を部屋に飾るときれいよ」というので、ワイフが枝を切り落として花瓶にいけ、窓辺に飾った。外は急に薄暗くなり始め、花の色が浮き立って妖精のように見えた。不意にチャイムが鳴った。インターホーンから男の声がした。「あのー、Iと云います。下のマンションに住んでいるものですが・・・」
不意の訪問者は押し売りか、苦情申立が多いい。出てみるとストレープの入った背広にトレンチコートを羽織った青年が立っていた。青年はもう一度Iと名乗り、「お願いがあるのですが・・・」と思い詰めた様子で話した。「実は今夜が友人のお通夜です、彼女はマンションの3階に住んでいました。毎年、お宅の桜を見るのをとても楽しみにしていたのです・・・・ですが一昨日・・・・・」「それで、桜霊前にお宅の桜を飾ってやりたいと思いまして・・・分けていただきたいのですが.....」
私たちは二つ返事で切り取ったばかりの桜を青年に差し出した。青年は花を胸に抱え去っていった。深い悲しみだけが残った。亡くなられた女性は32歳という。夜になって雨になった。桜は人の生き血を吸って咲く、花に嵐のたとえもあるが、明日には散り始めるだろう。はかない命、さよならだけが人生だ。合掌。
by daisukepro | 2006-04-02 23:09 | 未設定


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