腐った7つのリンゴ 「イラク・刑務所虐待はなぜ起きた」(NHKスペシャル) 2008年11月17日NHK綜合で22時から放送されたNHKスペシャルは見応えがあった。同好会が「クイズな人」でBBCニュースから紹介した元予備役憲兵ジョーダービーさんが登場していた。アブグレイブ刑務所の同僚が撮影した捕虜虐待写真を公開した人物である。彼はいまだに故郷に帰ることができず、実家は廃屋のようになっていた。彼は内部告発するかどうか、3週間、悩んだあげく匿名を条件に虐待写真をマスコミに手渡した。2004年のことであった。たちまち虐待写真は世界を駆け巡った。米軍がイラク空爆を繰り返し、大量の地上軍を派遣しても大量破壊兵器は発見されなかった。その上、捕虜虐待が発覚したのだ。マスコミはラムズフェルド国防長官の責任追及を始めた。退任を求める声も軍内部から起こっていた。その頃、ジョーダービーはアブグレイブ刑務所の食堂にいた。同僚たちとランチを食べていたが、なにげなくテレビを見上げて血の気が引いた。ラムズフェルド長官が大写しになっていた。その口から自分の名前が飛び出した。「アブグレイブ刑務所の捕虜虐待を内部告発した勇気あるヒーローがいる。栄誉ある行為を讃えたい。その兵士の名前はジョーダービーである。しかし、アブグレーブ刑務所の虐待はごく一部の特殊なケースである。」呆然とフリーズしているジョーに同僚が耳打ちした。「おい、直ぐ部屋に帰った方がいいぞ」 NHK番組は虐待事件がなぜ起こったか。はたしてアブグレイブ刑務所の虐待は特殊なケースだったのか。米軍はこの事件の幕をどのように引いたか、関係者のインタビュで明らかにした。特に刑務所長であったカーピンスキー予備役准将の証言は事件の本質を暴いて見事なものであった。 米国国防省は、事件に関連した17人の軍人及び職員を素早く解任した。ブッシュはメディアに向かって「腐った7つのリンゴがいる」と発言した。 ブッシュ大統領は捕虜虐待が組織的な行為でないことを強調したいのだ。 この大統領発言を受けて、腐ったリンゴを排除するために、急遽、軍法会議が開かれた。結論は始めから分かっていた。2004年5月から2005年9月までの間に、7人の軍人が軍法会議で有罪となった。禁固などの刑に服した。写真を撮ったもの、写真に写っていたもの、腐ったリンゴ全員が軍を追われた。しかし、虐待を指令した上層部は不起訴になった。ただ一人カーピンスキー予備役准将だけが懲戒免職になった。 NHK番組はまず「虐待の女王」とよばれたイングランド上等兵が登場する。公開された写真に彼女は捕虜の首に巻いたロープをもって立っていた。捕虜を犬のように扱って虐待している「虐待の女王」と報じられた。「写真を撮ったのはチャールスブレイナー元憲兵である。虐待の主犯格とされ禁固10年を宣告された。彼はイングランドのボーイフレンドであり、後にイングランドと結婚、娘がひとりいる。イングランドは最愛の彼に頼まれたのでポーズをとっただけである。捕虜虐待はしていない。当時、収容所では捕虜虐待が常時行われていたので、イラク兵のことなどは考えようともしなかった」と告白している。軍法会議はイングランド上等兵の弁明を認めず、腐ったリンゴのひとつとして禁固3年、不名誉除隊が宣告された。彼女はサンディアゴにある海軍刑務所に収監された。刑期を終えたイングランドは故郷のトレーラーハウスでNHKのインタビュにこたえていた。トレーラーハウスが建ち並ぶウエストバージニア州のこの辺りは全米でも最も貧しい地域のひとつという。ウイキペディアによれば「彼女はここの養鶏処理工場で夜間バイトをしていた。2001年、高校在学中にアメリカ陸軍の予備役に参加する。きつい労働から抜け出し、進学援助を受けるためだ」アメリカには徴兵制度がないが、月額援助と大学進学が保障されるため予備役を志願するものが多い。しかし、招集がかかれば拒否することはできない。貧しさから抜け出したいなら、国は君を援助してやるが、お前も国のために命を捧げよと言うに等しい制度だ。「彼女は高校卒業後近くのマーケットでレジ係として働いていたが2003年イラクに出征した。憲兵中隊,技術兵としてイラクに派遣された」。そして、被写体になったばかりに禁固3年の刑を努め、不名誉な「虐待の女王」としてトレーラーハウスに帰ってきたのだ。何という従軍経験だろう。悪夢のようだ。進学の夢も消えた。 (ウイキペディア参照http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%AA%E3%83%B3%E3%83%87%E3%82%A3%E3%83%BB%E3%82%A4%E3%83%B3%E3%82%B0%E3%83%A9%E3%83%B3%E3%83%89) 最後にカーピンスキー予備役准将がインタビュに応じた。番組のハイライトだ。 カーピンスキー予備役准将はアブグレイブ刑務所の管理責任者として予備役隊を指揮していた。 同准将の証言によると『2003年にグアンタナモ米軍基地の捕虜収容所施設から、軍情報機関の将校一団がアブグレイブ刑務所を訪れた。「この刑務所の目的は捕虜を収容するところではなく拘束者を尋問して情報を得ることである。尋問者に尋問を成功させるための新しいテクニックを教えることである」と訪問の目的を述べ、その日から尋問のための特別棟が設置された。そこは軍情報機関が直接管理することになった。尋問には中央情報局の職員、民間会社の社員がひんぱんに加わるようになった。』(2004/5/3/21:22 読売新聞) 民間会社とは外人部隊の組織編成、要人警備や特別な尋問テクニックをおこなう民間軍事会社のことである。当時、会社名は「タイタン」とよばれていた。 このとき以後、アブグレイブ刑務所の指揮命令は准将が管理する予備役隊と憲兵隊や情報機関と指揮命令は2系統になった。 キューバ・グアンタナモ収容所はテロ容疑者を収容するところである。捕虜に頭から袋をかぶせオレンジ色の服を着せ非人間的に扱うことで知られている。アフガンでテロ容疑者として拘束されるとたちまちここに連行された。連日、残虐な拷問システムで尋問が行われていた。この地獄の収容所については映画「グンアタナモへの道」(2007年2月10日発見の同好会掲載)が実態を明らかにしている。そこの収容所長がミラー米陸軍中将であった。かれは、その実績で、イラク全刑務所施設の管理責任者になっていたのだ。 かれは「収容者を捕虜あつかいしない。したがって、ジュネーブ条約は適用しない」、「憎むべきテロリストには人間性の破壊と情報収集のためなら拷問システムあるのみ」と言い放っている人物だ 5月19日、米上院軍事委員会公聴会で、アビゼード米中東軍司令官(陸軍大将)は「問題の刑務所で管理システム上の問題があった。我々は間違いを犯した」と証言している。そして虐待はアフガニスタンでもあったことを認めている。 公聴会でミラーは「頭にかぶせる袋など50あまりある過酷な尋問テクニックのうち10ほどは廃止する」と言ったが、「捕虜の睡眠を妨げたり、『ストレス環境におく』といった手法は必要に応じてやる。民間の尋問専門家の活用も必要である。グアンタナモは30名雇用した」と述べている。 グアンタナモ収容所と同じ拘束者にたいする扱いが、イラクにおいても指令され、ほかのイラクの刑務所でも行われていたことは疑いも無い。ただ、証拠になる写真が無いだけだ。 カーピンスキー予備役准将はNHKのインタビュにこう言い放った。『かれらが処罰したいのは指揮命令をした奴ではなく、写真を撮った奴、写真に写っていた奴なのです。かれらは「だれだ、こんな写真を撮りやがたた奴は!」と言いたいのだ。』 米軍はイラクで4万4000人を拘束し、当時8000人を拘留中、内アブグレイブ刑務所には3800人を収容していた(アエラ5月24日号) 米軍は2004年5月14日と21日に拘束者315人を釈放した。 しかし、全面的に釈放されるまでには2年の歳月がかかった。 ラムズフェルド更迭までの経緯は以下の通り。『写真の右はラムズフェルド(中央)の訪問を受けるカービンスキー准』 米軍は2006年3月9日4500人をバクダット空港近くの別の収容所に移す計画を発表、8月15日に移送を完了、9月2日イラク政府はアブグレイブ刑務所の管轄権が駐留米軍からイラク側に移管されたと公式に発表した。「アーミー・タイムズ」など陸海空軍と海兵隊の関係者向けの専門4紙が共同社説でラムズフェルドを非難し、大統領に更迭を要求する事態に至った。 2006年11月8日の中間選挙において、イラク政策に対する有権者の不満などから共和党は大敗し、結果を受けたブッシュ大統領の記者会見の席でラムズフェルドの辞任が発表された。 イスラム・メモ通信の記者が「この間アブグレイブ刑務所では毎月4、5人の収容者が死んでいる」と伝えた。 この残酷な尋問システムを評価し、捕虜虐待を推奨してきた人物ラムズフェルドは更迭され、アブグレイブ刑務所はイラク政府に返還された。メディアからアブグレイブ関連のニュースは次第に姿を消した。アブグレイブは廃止されたが、残酷な尋問システムはいまもイラクの米軍刑務所で続いているのだろうか。NHKには再放送、アメリカ軍には一日も早くイラクからの撤退を望みたい。
by daisukepro
| 2008-11-22 19:02
| イラク戦争
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