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日本国憲法を知り、学ぶ

 大工をなりわいとしてきた栃木県茂木町の明良(あきよし)佐藤さん(74)は、8月15日に新しい年が始まる「戦後カレンダー」を1984年からつくり続けてきた。敗戦の昭和20年を元年とする独自の「戦後暦」には、「日本人310万人と隣国及びアジア諸外国の2千万人の戦争犠牲者を忘れず、二度と戦争はしない」という思いが込められている。平和の礎と考える憲法9条の改正論議がかまびすしくなって、憲法について学び始めると、「憲法には初めて知る驚きがたくさんつまっていた」という。自民党が憲法改正推進本部の会合を開いて改憲に向けた議論を再開した今、学者や評論家といった専門家ではない人々が「憲法を知り、学ぶ」重要性は高まっている。明良さんに「憲法びっくり」を投稿してもらった。

【1946年に公布された日本国憲法の原典】
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*  *  *
 私は74になる。東京に40年。田舎に移って34年。その後半の稼ぎは大工でやってきた。

 そんな私が70になって、はじめて憲法をしっかり読んでみた。そしたら驚いた。びっくりの連続。その驚きを皆さんに伝えたい。

 まずは憲法のできるいきさつから。

 安倍首相が「GHQ(連合国軍総司令部)から押しつけられた憲法だから自分たちの自主憲法をつくろう」と盛んに言っているけど、学んでみると、はじめGHQは、自分たちで憲法をつくる気はなかった。日本を間接統治する方針だったから、日本政府に憲法案をつくるように指示した。ところが出てきた政府案(松本試案)にGHQはびっくり。「日本国は君主国とす」「天皇は君主にしてこの憲法の条規により統治権を行う」と明治憲法と似たものを出してきた。「軍国主義の除去と民主的傾向の強化、基本的人権の確立」のポツダム宣言を受諾して敗戦したのに、その受諾内容を無視したものを出してきた。

 これではとてもダメだ。GHQは急きょ方針を変更。日本政府を見限り、自分たちで憲法案をつくった。それもわずか9日間で。これもびっくり。そして吉田茂外相、松本烝治憲法担当国務相らに示した。


それを見て吉田らはびっくり。「天皇がシンボルとは……、主権者たる国民の総意に基づくとは……」

 何から何まで納得しがたい。だが最後は受け入れた。GHQは「最高司令官は万能ではない。この案が受け入れられれば、天皇の地位は安泰になるだろう」と言う。なぜなら、天皇の戦争責任を追及すべきというソ連やオーストラリアなどが参加している極東委員会が間近に迫っている。開かれる前に新憲法案をつくって、日本は二度と戦争をしない体制になった、と極東委員会を納得させなければ、天皇が戦争犯罪人として扱われる可能性もあった。そんなことになったら、日本は混乱し、占領統治がむずかしくなることをGHQは知っていた。

 そして、GHQの意向通り、天皇の戦争責任は免責され、象徴天皇制の憲法体制で戦後の出発となった。

 安倍首相とその取り巻きたちは、この経緯を無視して「押しつけられたから、自主憲法を」と言っている。自分たちの保守政治のふがいなさから、GHQの憲法作成を招き、保守政治が最も大事にしている天皇制護持(象徴だが)のために、GHQが憲法草案をつくったことを頭に入れていない。押しつけどころか、この憲法が天皇制を護持した。この歴史を無視した態度に、改めてあぜん。

 つぎは第一条。「天皇は、日本国の象徴であり日本国民統合の象徴であって、この地位は、主権の存する日本国民の総意に基く」

 この文の後半を、よーく見てください。天皇の地位は主権の存する日本国民の総意に基づく、とある。ということは、国民の総意が望まなければ、天皇の地位をなくすことができる、ということ。つまり、象徴天皇の地位を廃止することもできる、と言っている。これはびっくりではありませんか。そんなことが憲法に書いてあるなんて! 主権在民はそれだけ強いということを改めて知った。

 戦前は天皇が主権者。三権のすべて、立法、司法、行政を支配し、軍隊を支配する大権をもつ強大な存在。敗戦後、日本国憲法によって、その天皇が象徴になり、臣民、天皇の赤子といわれた国民が主権者となって、天皇の地位を総意によって左右する存在になった。まさに百八十度逆転。その意味で革命が起こった。でも、その革命はフランスのように市民が戦い取ったものではない。日本人310万人と隣国及びアジア諸外国の人々2千万人の血の犠牲によってなった。それだけに「主権者としての私」を大事にしたい。


つぎは十条。「日本国民たる要件は、法律でこれを定める」

 この簡単な、ちょっと読んだのでは、何を言っているのかよくわからない条文。そこで調べると、この背後に、深い意味が隠されていた。

 日本国民たる要件とは、日本国籍の要件を言うそうです。そう書いてくれればいいのにね。実はこの条文はGHQ草案には入っていません。

 入っていたのは「外国人(在留外国人)は平等に法律の保護を受ける権利を有す」です。とてもわかりやすい。しかし日本側は、GHQとねばり強く交渉して、この項を削り、代わりにこのわかりにくい国民の要件を入れた。この十条、実は明治憲法十八条と同じ。びっくり! 明治憲法をひっくり返してできた新憲法の中に、明治憲法が入っているなんて! この結果、後でできた下位の国籍法によって、日本国籍を取るには、生まれた子の親が日本国民であること、という古い感覚の血統主義が入った。第三章「国民の権利及び義務」冒頭のこの条文によって、これ以下の各条項の人権の享受は、「日本国籍を有している者だけですよ」と制限が加えられた。

 その結果、長年日本で暮らす外国人の権利が、新憲法施行後、排除された。GHQ草案は「平等に法律の保護を受ける」となっていたのに。日本政府の巧妙な抵抗といい、人権感覚のなさといい、びっくりを通り越しますね。

 つぎは憲法十四条一項。「すべて国民は、法の下に平等であって、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない」

この条文をよーく見てください。後半に「門地」ということばがありますよ。門地とはなに?です。このことば、いままで人生長くやってきて、聞いたことがありません。GHQはこんなことばを知っていたか、です。

 調べてみると、案の定、交渉の過程で日本側が巧妙に入れた訳語なのです。門地を辞書で引くと「家柄、とくに高い格の門閥」となっています。GHQ草案では、ここのところは「階級又は国籍起源」となっています。つまり、「階級や国籍によって差別されない」です。意味は明快ですね。条文の冒頭もGHQ草案では「すべての人は法の下に平等であって」という普遍的な真理をかかげていますよ。ここでも日本側は、明治憲法の精神・家父長制の精神で抵抗をします。「すべての人は」を「すべて国民は」に変え、「階級」を「社会的身分」、「国籍」を前の階級に沿うような訳語「門地」にしたというわけです。その結果、この法の下の平等は、日本国民だけに適用されるものになり、「国籍によって差別されない」が、「門地によって差別されない」に変わることによって、在留外国人には適用されないものになったのです。とくに在留外国人で最も多い人数の、敗戦まで日本人として、連合国軍に対して戦った在日朝鮮人・台湾人に適用されないことになったのです。文面上正しいが、実質的に差別する憲法となったのです。ほんとにびっくりです。

週刊朝日 2017年12月15日号より抜粋


by daisukepro | 2017-12-16 09:11 | 憲法


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