講談社がヘイト本、出版文化は末期的

先日、本サイトでは、ケント・ギルバート氏のベストセラー『儒教に支配された中国人と韓国人の悲劇』(講談社)の実態が中国人や韓国人への憎悪を煽る悪質なヘイト本であることを指摘し、版元である講談社が老舗の出版業界最大手であるにもかかわらず“ヘイト本ビジネス”に手を染めたことを批判、「もはやこの国の出版文化は末期的と言うしかない」と断じた(http://lite-ra.com/2017/06/post-3254.html)。

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 ところが、この国籍や民族でひとくくりにして〈「禽獣以下」の社会道徳や公共心しか持たない〉〈彼らは息をするように嘘をつきます〉〈自尊心を保つためには、平気で嘘をつくのが韓国人〉〈その病的なレベルについていえば、韓国人が世界一〉などとひたすら悪罵を連ねるヘイト本は、本サイトの論評後も売れに売れ続け、現在、出版不況の中で50万部に届こうかという大ヒット中。あまつさえ、講談社社内で表彰すら受けたという。「売れたものが正しい」と言わんばかりの講談社の姿勢には、まったく目眩がしてくるではないか。

 しかし、ここにきて、ケント氏のヘイト本をまっとうに批判する声が、出版物を読者に届ける立場の人々からも出始めている。たとえば、大手書店チェーン・ジュンク堂書店の難波店店長である福嶋聡氏は、インターネット言論サイト「WEBRONZA」に、「K・ギルバート氏の本で心地よくなってはならない」と題する論評を寄稿。同書の問題点を鋭く指摘し、大きな話題になった。

 いや、それだけではない。『儒教に支配された中国人と韓国人の悲劇』の内容と、その大ヒットを手がけた講談社の姿勢に対し、他ならぬ講談社社内からも強い疑問が呈されたのである。

 講談社の労働組合が不定期で出している「組合ニュース」と呼ばれる会報があるのだが、その最新号で、複数の社員が『儒教に支配された中国人と韓国人の悲劇』をめぐる自社の姿勢を問題視しているのだ。たとえば40代男性社員は〈講談社がケント・ギルバート氏の口を借りてヘイト本を出してしまったことと、批判をものともせずにそれを顕彰していることに恐怖を感じています〉と吐露している。

 さらに、社内でマンガ編集を担当しているとみられる30代女性が「組合ニュース」に寄稿した文章は、まさにこの講談社のヘイト本問題の本質と重大性をつくものだった。

〈私は、この本の存在を、書店、そしてネット上のレビューで見たときに、本当に目の前が真っ暗になるほどの絶望を感じました。このタイトルをタイピングするだけでも手が震えるほどの嫌悪を感じます。まさか講談社から、このような差別扇動本が堂々と出版されるとは想像もしていませんでした。〉

民族差別だけでなく、ネトウヨのデマをノーチェックで引用

 中国人や韓国人に対して、民族や国籍でひとくくりにして、「禽獣以下」だの「息をするように嘘をつく」だの「病的」だのというのは、完全に民族差別、ヘイトだろう。

 しかも、タイトルと書き出しで宣言した「儒教」については、同書をいくら読んでもの儒教思想に対する深い分析などまったく出てこない。たんに上記の中国人、韓国人ヘイトに対する悪罵をなんの根拠も示さないまま、すべて「儒教の呪いがなせる業」「儒教に呪われた中韓の人間」「儒教の呪いにかかったコウモリ国家」、果ては「儒教の陰謀」などと繰り返しているだけなのだ。

 こんな安易な論理が通用するなら、逆に日本についてだって同じようなことが書けてしまうだろう。たとえば、「日本人は市民から政治家や官僚まで、常に上の顔色をうかがい、強いものに媚び、弱いものいじめをする民族だが、これは明治維新の原動力になった武士たちの中に儒教精神が息づき、戦前の教育勅語が儒教の影響を色濃く受けているせいだ」なんてこともありになってしまう。

 しかし、ケント氏はもちろんそんなことは言わない。あとがきでは、一転して、日本人をこう褒め称えるのだ。

〈日本は世界に誇るべき歴史を持った国です。そして日本人は誰からも尊敬され、愛される国民性を持った民族なのです。〉

 中国、韓国に対する差別的攻撃の一方で、日本人を優秀な民族として手放しで絶賛する──これは、本を売ろうとする悪質なヘイト本のやり口そのものだろう。

 さらに、ため息が止まらないのは、同書が中国・韓国人を悪者に仕立て上げたいがゆえに、「火病」や「ウリジナル」などとネトウヨ系の語彙を連発するとともに、悪質まとめサイトレベルのデマや陰謀論までバンバン展開していることだ。

 たとえば、ケント氏は〈「二〇五〇極東マップ」なるものがネットにアップされ、一部で話題になりました〉〈中国外交部(外務省)から流出したとされる〉などとして〈日本占領計画の一端である可能性がある〉と書いているが、これは、もともと日本人が作った地図がSNSや匿名掲示板で尾ひれがついただけの代物。とっくに虚偽だと判明している。

ケントが過去の著書で引き起こした“ゴースト&コメント捏造”事件

 こういうネトウヨのデマを「保守系」文化人たちが書籍で再生産するというずさんな構図も、ここ数年の嫌韓反中本ブームでよく見られた光景だが、ケント氏もご多分にもれず、そのパターンを踏襲しているということらしい。

 実際、以前にも本サイトでお伝えしたように、ケント氏は「Voice」(PHP研究所)への寄稿及び著書『やっと自虐史観のアホらしさに気づいた日本人』での“コメント捏造&ネトウヨ言説コピー”事件というのをやらかしたことがある。

 これは、南京大虐殺の世界記憶遺産登録をめぐって中国とユネスコを批判する文脈で、ケント氏が〈神戸大学の梶谷懐先生によると、PRC(引用者註:中華人民共和国)はヨーロッパにおいても反日工作をかなり強めているそうですが、欧米諸国は、「PRCはなぜそこまで日本に絡む必要があるのか?」という疑問しかもっていません〉と書いたことに端を発する。

「梶谷懐先生」というのは、中国経済を専門とする経済学者、梶谷懐・神戸大学大学院経済学研究科教授のことだが、梶谷教授は「私が全く言ったり書いたりしていない内容」と反論して「Voice」編集部に抗議。版元は誤りを認め訂正したのだが、その説明で唖然とするようなことが判明した。

 くだんの記事はケント氏が書いたわけではなく、喋ったのをゴーストライターが文章にしていたのだが、その書き起こしのなかで、どうも「KAZUYA」を「KAJIYA」と間違えたというのだ(なお、梶谷教授の姓は「KAJITANI」)。ゴーストライターに書かせたというだけでなく、ゲラでもチェックミスと、そのいい加減な本作りが露呈されたわけだが、さらに唖然としたのが、ケント氏が実際の発言者として紹介していたのが「KAZUYA」だったということだ。

 KAZUYAこと京本和也氏といえば、YouTubeやニコニコ動画に反日攻撃動画を続々と配信している“ネトウヨ動画芸人”。ようするに、ケント氏はこうしたネトウヨ界隈の言説を拝借し、チェックすらせず、もっともらしく歴史問題や国際政治を語っているのだ。

 実際、ケント氏の言動をチェックしてみると、ほかにもネトウヨ受けするヘイトスピーチや“反日陰謀論”をつぎはぎしているだけで、中身なんて全くない。

ケント・ギルバートのネトウヨ化はマーケティング?

「慰安婦問題を語るに当たって、慰安婦という呼び方は止めるべきだと思いっています。「戦時売春婦」と改めたほうが良いのではないでしょうか」(『素晴らしい国・日本に告ぐ!』テキサス親父との共著、青林堂)
「沖縄で反基地運動をしている連中は、必ずしもサヨクというわけではありません。中には「サラリーレフティスト」(おカネをもらって反対運動をする活動家(引用者注:原文ママ))もいるんです。それから日教組の教員も加担しているでしょう。彼らは共産主義者に近い存在なんです。そして日本を憎んでいます」(同)
「噂では、移設反対運動に参加すれば、日当は一口二万円ということです」(『まだGHQの洗脳に縛られている日本人』PHP研究所)
「(反基地の)デモ隊の日当を中国共産党が間接的ではありますけども払ってます」(テレビ朝日『朝まで生テレビ!』2015年11月27日放送)

 しかし、それも当然だろう。そもそもケント氏じたい、1980年代の“外タレブーム”でお茶の間の人気者になったときは右派思想の持ち主でもなんでもなく、むしろ、憲法9条擁護や在日韓国・朝鮮人への同情的な発言をしていた。しかしその後、テレビからも消え、手を出した事業も失敗。怪しいマルチまがいビジネスにまで手を出すようになっていた。完全に「あの人はいま?」状態である。

 そんなところに、ビジネスパートナーを通じて右派人脈と知り合い、2014年の朝日新聞の慰安婦報道問題の際、ブログで“朝日バッシング”を展開したところ、アクセスが殺到。そのあと、「夕刊フジ」を筆頭に「正論」(産経新聞社)、「Voice」、「WiLL」(ワック)など右派論壇で引っ張りだことなる。2015年には例のアパグループ主催懸賞論文の最優秀賞も受賞。また言論弾圧団体「放送法遵守を求める視聴者の会」の一員として、テレビ報道へ難癖をつけまくると同時に著書や共著本を乱発し、歴史修正主義発言やヘイト発言、トンデモ陰謀論をどんどんエスカレートしていった。

 ようするに、ケント氏はたまたま朝日問題について書いたところ、これまでになかった反響を呼び、メディアからも声がかかるようになった。だから、「これはいける!」と、ネトウヨ受けするような問題に片っ端から食いつくようになり、主張をエスカレートさせていったのではないか。そのふるまいの源にあるのは「中国・韓国の悪口を言って日本を褒め立ててくれる欧米人」というマーケティング的な狙いに過ぎないのではないか。

 それは今回も同様だ。その薄っぺらい中身を読むと、まさにマーケティング的な狙いにもとづいて、ネトウヨ読者に受ける手法を踏襲し、典型的な中韓ヘイト本をつくりだしたとしか思えない。


大手出版社・講談社がヘイト本を出版した責任

 しかし、呆れてもいられないのが、そのケント氏による粗雑なヘイト本『儒教に支配された中国人と韓国人の悲劇』が、あの講談社から出版されているという事実だ。

 もともと、この手の中身スカスカのヘイト本や嫌韓反中本は、ワックとか青林堂、扶桑社といったバリバリのヘイト、極右出版社が発行元になっているケースがほとんだだった。

 ところが、今回は出版業界最大手の出版社がこんなネトウヨのデマに丸乗りするようなヘイト本を出してしまったのである。当然、世間に与える影響もいままでとは比べものにならないし、実際、『儒教に支配された中国人と韓国人の悲劇』が30万部という異例の売れ行きになったのも、講談社が版元だったということが大きく関係しているはずだ。

 講談社はこれまで、人文、社会科学分野で良質な本も多数手がけ、かつては月刊「現代」や「G2」を舞台にすぐれたノンフィクションも多数出版してきた。同社で本を出したり、原稿を執筆したことのある学者、作家、ジャーナリスト、評論家が、この本を読んだら一体どう思うだろうか。

 なかには、抗議の声を挙げたり、あるいは執筆拒否をする動きも出てきかねないと思うが、しかし、出版不況の深刻化でこの大手のヘイト本参入はこれからさらに拍車がかかるかもしれない。「ただ売れる」という理由で、大手出版社から他民族への憎悪を煽るだけの中韓ヘイト本が続々と出版され、百田尚樹やケント・ギルバートのような、ネトウヨ作家、タレントに注文が殺到する。もはや、この国の出版文化は末期的というしかない。


戦前の講談社、大日本雄弁講談社の悪夢がよみがえる。

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by daisukepro | 2018-01-20 10:03 | 文化


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