特別寄稿/『反日種族主義』に反論する(1)植民地近代化論
日帝強制占領期間に所得不平等が深化 開発利益は日本人に集中し 朝鮮人は飢え続け 解放後も長い間貧困に苦しんだ イ・ヨンフン元ソウル大教授らが書いた『反日種族主義』が論議を呼んでいる。この本は、10万部近く売れベストセラー1位に上がった。「日帝は朝鮮を収奪しなかった」「強制徴用はなかった」 「日本軍“慰安婦”らは性奴隷ではなかった」などの極端主張が流布され、政府の高位公務員が「親日することが愛国」と言うまでに達した。この本で最も問題となる植民地近代化論、強制動員、「慰安婦」問題に関し、各分野の専門家の寄稿を3回にわたり掲載する。 ホ・スヨル忠南大学経済学科名誉教授//ハンギョレ新聞社 2005年4月、日本の極右新聞と呼ばれる産経新聞の姉妹誌「正論」という雑誌に、ハン・スンジョ元高麗大学教授(政治学)が「親日行為がすなわち反民族行為か?」という寄稿を載せ、韓国が沸きかえったことがある。当時制定された「日帝強制占領下の親日反民族行為真相究明に関する特別法」が、このような寄稿文を書いた直接的契機であった。一部の新聞では「日本の植民支配は祝福」という刺激的なタイトルで報道したことにより、ハン教授は世論の厳しい叱責を受けた。彼の主張の中には、植民地近代化論の特徴がそっくり含まれていた。そこでイ・ヨンホ仁荷大学教授(史学科)は、これを「植民地近代化論のカミングアウト」と述べた。 植民地近代化論は、社会的イシューになるたびに世論で一斉に叩かれたが、忘れた頃には必ず飛び出してくるようだ。植民地近代化論を主張する学者が書いた『反日種族主義』もまた同じだ。この本を読んで、洪準杓(ホン・ジュンピョ)前自由韓国党代表は「保守右派の基本的考えにも外れる内容」と述べ、チャン・ジェウォン自由韓国党議員は「本を読む間、激しい頭痛を感じた」と話した。それほどこの本は保守・進歩を問わず大多数の韓国国民の普遍的常識とはかけ離れている。 日本植民地時代に朝鮮の少年たちが作ったかますを売る市場の様子。学校では貧しい子どもたちにかますを作らせ学費の足しにする児童強制労働をさせた。朝鮮総督府は、米を収奪するためにかます作成を細かく計画し管理した=ソウル特別市史編纂委員会『写真で見るソウル2』//ハンギョレ新聞社 それにもかかわらず、植民地近代化論者などは臆するところがない。それは“不都合な真実”かもしれないが“客観的事実”であるためだということだ。そのため学者的良心からそのように言うほかはないということだ。ハン・スンジョ教授は、韓国の代表的政治学者のひとりであったし、『反日種族主義』の著者も高い学問的水準を持っている学者だ。彼らは自分の主張を裏付ける論拠を持って主張しているのであって、感傷的に主張しているのではない。 植民地近代化論という用語は、国史学界がかぶせたフレームのようなものだと言って植民地近代化論者本人たちは特に満足していないようだ。そのためこの用語を使うのは慎重になるが、本人たちが自分たちの学問思潮に対して特に何か規定しているわけでもないので、便宜上この用語をそのまま使うことにする。 植民地近代化論というのは、だれか一人の見解ではなく、さまざまな研究者による集合された考えだ。研究者の専攻も経済学だけでなく、歴史学、政治学、社会学などとても多様で、研究対象の時期も朝鮮末期から現在に至るまで多様だ。そのため共通分母を探すことは容易でなく、ややもすれば一般化の誤りを犯しかねないが、時期別に植民地近代化論の主要な主張を要約してみると、次のとおりになる。 (1)朝鮮末期社会が生産力の崩壊とともに自滅するしかない危機に置かれていた。 (2)日帝強制占領期間、日本から近代的なさまざまな制度が導入され、先進的な資本が大挙投入されることによって朝鮮が急速に開発され、その結果朝鮮人の生活水準も向上した。 (3)このような植民地的開発の経験と遺産が、解放後の韓国経済の高度成長の歴史的背景になった。 鉄道・道路拡充で耕地・生産性拡大 日帝強制占領期間の資料を読めば、その当時植民地朝鮮で注目すべき開発が行われたことを簡単に識別できる。近代的な日本の法が朝鮮に適用された。市場制度が発展した。鉄道・道路・通信・港湾などの社会基盤施設が拡充された。先進的技術を持っている日本の資本が大挙投入されて、工場と鉱山が建設された。河川が改修された。農地改良と農業改良によって耕地面積が拡大し、農業生産性も上がった。都市計画と上下水道施設が普及した。こうした証拠はこの他にも逐一数え上げられないほど溢れている。 不都合な真実はここから生じる。「こうした近代的なさまざまな変化が植民地朝鮮を開発させただろうし、その開発のおかげで朝鮮人も少しは豊かに暮らせたのではないだろうか」という気がしてもおかしくない。「日本人たちが開発の利益の多くの部分を持っていったと言っても、朝鮮人にも少しはおこぼれがあっただろうし、それで朝鮮人も多少は豊かに暮らせたのではないか」と考えることもできるということだ。 ところが、朝鮮が開発されたということと、それが朝鮮人にとっても利益になったという論理展開の中には、論理の飛躍という落とし穴がある。朝鮮という地域の開発と、朝鮮人の開発を区別できない飛躍だ。日本人たちは猛烈な速度で朝鮮の土地を掌握して行き、鉱工業資産は90%以上が日本人たちの所有であった。少数の日本人が土地や資本のような生産手段を集中的に所有したので、所得分配が民族別に不公平にならざるをえなかった。こうした不公平な所得分配構造は、日本人たちにより多くの生産手段を所有できるようにし、それが所得不平等を拡大させた。こうした民族別不平等の拡大再生産過程が、植民地時代に朝鮮で広がっていた開発の本来の姿だった。 不公平な開発は民族差別を拡大させた。朝鮮の開発は日本の、日本人による、日本人のための開発であったため、本来この地の主人だった朝鮮人はそうした開発の局外者に過ぎなかった。歳月が流れますます民族別生産手段の不平等が拡大して、経済的不平等が拡大するいわゆる「植民地的経済構造」に閉じ込められることになった。したがって、植民地体制が清算されない限り、朝鮮人は植民地的経済構造から抜け出すことができず、未来に対する希望も持てなくなった。解放がまさにこの植民地的経済構造から脱皮できる唯一の道だった。まさにそうした点で、民族独立運動が何よりも重要で大切だった。筆者が以前に書いた本に、『開発なき開発』という一見形容矛盾したタイトルを付けた理由もそこにあった。 筆者の話が反日種族主義のドグマを抜け出せなかった極端主張と聞こえるだろうか? 筆者は長い間、植民地近代化論が得意とするその実証により植民地近代化論を批判する論争を無数に行ってきた。紙面の制約のために、ここでその多くの実証を具体的に扱うことはできない。多くの実証的論争の中で、最も重要で簡単に説明できる一つの指標を挙げて植民地近代化論の主張が事実でないことを証明してみることにする。 「強制占領期間、朝鮮人の背が高くなった」という主張 植民地近代化論は、「日帝強制占領期間に朝鮮で行われた開発の結果、朝鮮人の生活の質も高まった」と主張する。「日帝強制占領期間に朝鮮人の背が高くなった」という主張もここから派生したものだ。植民地近代化論の最も主要な主張の一つだ。『反日種族主義』の筆者の1人である落星台(ナクソンデ)経済研究所のチュ・イクジョン研究委員の研究によれば、日帝強制占領期間に朝鮮人1人当たりの国内総生産(GDP)が60%以上増加し、1人当たりの消費も大きく増加したという。日帝強制占領期間に朝鮮人の生活水準が向上したという主張だが、これは落星台経済研究所が出した「韓国の経済成長1910~1945」という研究結果を土台にしている。果たしてこうした主張は妥当だろうか? 忠南大学のユク・ソヨン博士は、1910~2013年の食品需給表を利用して、朝鮮(韓国)の1人1日当たりの栄養供給量の変化を分析した。韓国農村経済研究院は、食品需給表を1962年以来現在まで毎年公表している。ユク博士は、食品需給表が存在しない1910~1962年に対する食品需給表を追加して、その時系列を1910年までさかのぼった。この食品需給表から、1人1日当たりのエネルギー、蛋白質、脂肪質、無機質(Ca,Fe)、ビタミン(A,B1,B2,Niacin,C)などの栄養供給量が分かる。エネルギー、蛋白質、脂肪質など主な栄養供給量を中心に、その分析結果を整理してみれば次のグラフになる。 1人1日当たりの栄養供給量(資料:ユク・ソヨン「食品受給表分析による20世紀韓国の生活水準に関する研究」、2017)点線=タンパク質 細線=脂肪質 太線=カロリー//ハンギョレ新聞社 グラフからわかるように、1918年までは栄養供給量が増加したが、その後1945年までは減少傾向を見せ、解放後に反転して明確な増加傾向を見せている。1990年代中盤以後のエネルギー供給量と蛋白質供給量がほとんど停滞しているのは、この時期になればダイエットが主な関心事になるほど栄養供給がすでに飽和状態に到達したことを意味する。 日帝強制占領期間に朝鮮人の所得は非常に低い状態だった。この期間に朝鮮人の所得が増加したと仮定してみよう。低い所得のために食べ物をまともに食べられなかった時期、すなわち常に空腹だったそのような時期には、所得が増加すれば当然何より先に食べ物を求めるので、食物消費量は増えるだろう。栄養供給量が増加しなければならないという話だ。ところが、グラフを見れば日帝強制占領期間に栄養供給量は減少していたので、朝鮮人の所得が増加したという命題は成立しえない。 一般的に人々の身長は、長い場合で二十歳まで伸び、その後は成長を止める。身長と成長期の栄養供給量の間には強い相関関係があるという。成長期によく食べれば、そうでない場合に比べて平均身長が高くなる。日帝強制占領期間に栄養供給量が減少したということは、平均身長が高くなったと主張するすべての研究が事実でない可能性が高いことを強く示唆する。 留意すべき点は、1918年までの増加傾向だ。筆者は、この増加が朝鮮が日本の植民地になった直後の初期統計が持つ問題点のためであり、現実ではないと主張してきた。同時に、この期間の経済成長をめぐって植民地近代化論とすでに多くの論争を繰り広げてきた。結論的に言えば、1910~1918年の間にも栄養供給量は減少または停滞したと見てこそ正しいというのが筆者の考えだ。筆者の主張が信じられないならば、争点となる期間を論外にするなり、それをそのまま受け入れて見ても結論には大差ない。 ある国の生活条件を、物質的な消費だけで説明することはできない。例えば、ブータンのような国は所得水準はそれほど高くないものの、幸福指数は非常に高いという。しかし、貧しくて食事さえままならない状況で幸福を云々することはできないではないか?そうした点で、日帝強制占領期間に朝鮮人の生活の質が良くなったとか、生活水準が向上したなどという主張には説得力がない。 広く知られているように、解放後の韓国は所得水準が非常に低い国の一つであった。解放後、長期にわたり春窮(春の端境期)という言葉がなくならなかった程にいつも飢えに苦しめられた国だった。遠い昔の話のようだが、筆者自身が経験したことだった。日帝強制占領期間にそれほど多くの開発が行われたならば、解放後の韓国がそれほど貧しくなかっただろう。こうした経験は、上のグラフとも整合する。これがファクトではないのか。植民地近代化論の“不都合な真実”は“不都合な虚構”に過ぎない。 ホ・スヨル忠南大学経済学科名誉教授
by daisukepro
| 2019-09-02 14:59
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