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「誰も行かないところに、誰かが行かなければ」

「誰も行かないところに、誰かが行かなければ」

TBSの報道特集(10月7日17時30分)で長井カメラマンのビデオテープが公開された。
「誰も行かないところに、誰かが行かなければ」_c0013092_23124052.jpg最後の数時間、長井さんが見たものは何か。伝えたかったものは何か。死の瞬間まで放さなかったカメラは知っている。だが、残念なことに、私たちはその日のテープを見ることができない。カメラが軍事政権に押収されたまま返らないからだ。それでも、公開されたテープから緊迫したヤンゴン市内の状況が生々しく伝わってきた。その日、長井さんはガイドを伴って市街の取材に出かける。しかし、僧侶の姿は町中に一人もいない。長井さんは寺院を訊ねる。奇妙なことにそこにも僧侶の姿はまったくない。「何故ここにも僧侶がいないんだ」「知らない」「どこにいるのか」「しらない」とガイドは答える。「知らない?変じゃないか」「恐くていえない」「なんでそんなに恐いのか」「あんたのために言っているんだ」。長井さんは別の寺院も取材している。そこにも僧侶は一人もいない。再び長井さんは市街地に向かう。「そっちは危ない、行かない方がいい」「なぜ?」「そこは軍隊の通る道だ、本当に危ない」。軍隊の姿は見えないが、横道には車の影すらなく、人の子一人通っていない。道の行く手には通りが見え、通行人が行き交っている。「ここからは危ない」「なんで止めるんだ。俺はアフガンにもイラクにも行っている。心配するな」「危ない、行くな」「俺は行きたいところへ行くぞ」長井さんは静止するガイドを振り切るように、表通りに飛び出していく。長井さんはオレンジ色のローブをまとった若い僧侶に近づき話しかける。僧侶は緊張した様子で周囲を警戒しながら短く答える。数人の僧侶が大声で叫ぶ。街路はたちまち緊張が走る。「皆、でろ。出るんだ」道路には次第に僧侶たちが集まってきた。「デモをやるぞ、さあ、出るんだ」。長井さんはカメラを回しながら現地の人に「警官はどこにいるんだ」「あれか」「あれは違う」「警官はどこだ」と長井さん、手持ちカメラは現地人の間を抜けて裏路地を進む、その途中、録画は切れた。画面から姿こそ見えないが、軍隊がデモの周囲を固めている状況が生々しく伝わってきた。胸を締め付けられる。5日、サンケイ新聞の報道は「長井さんの遺体は帰国後、司法解剖された。その結果、長井さんは背後から撃たれ、銃弾1発が左腰背部から右上腹部に貫通していたことが判明。死因は肝損傷による失血死と特定された」と伝えた。司法解剖の結果は完全に射殺された決定的瞬間の映像と一致する。長井さんは権力の暴虐と闘う人々の姿を伝えようとして、デモの隊列の中に踏み込んだのだ。「誰も行かないところに、誰かが行かなければ」と。また一人、フリージャーナリストの尊い命が失われた。
デモに参加した僧侶たちは軍隊に検束され、100名以上の若い僧侶たちの安否はいまだ不明という。
by daisukepro | 2007-10-07 23:13 | テレビ


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