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カテゴリ:筆洗( 3 )

われわれの足元の下には災厄があり、すぐにその恐ろしい顔を見せる。再認識しつつ力を合わせるときだろう。

筆洗 東京新聞

 濃い、淡い緑が広がっているはずなのに、地肌の茶色があちこちでむき出しだ。巨大な爪にそこらじゅう引っかかれたかのような北海道厚真町の姿に驚きと恐怖を覚え、助けを待つ人々の無事を祈る。びっしりと植えられた木々の下から、冷たい土が一瞬で表に出てきた。災害に備える難しさを突きつけられているような最大震度7の地震である▼近代的でもろさなど感じられなかった関西空港が風と高潮でまひしたばかりだ。自然の災厄の無情な力を連日目のあたりにしている▼これほどの地震が北海道を襲うとだれが想像できただろうか。ただ、かの地では、アイヌ民族が、災害が多かったことを思わせる物語を口伝えで受け継いできた。現代への警鐘に思える▼神話では、この地は洞爺湖などにいる巨大な魚が暴れると地震が起きることになっている。その一つでは、英雄神が苦労して退治するのだが、退治した後に踊ると波が立ち、今度は地滑りが起きた。<十勝川へ大山津波が下り/わが沙流川も大山津波が下る>(金田一京助著『アイヌ文化志』)▼アイヌ語由来の地名にも災害の跡を思わせるものが多いという。アイヌ文化研究家更科源蔵によれば、札幌を流れる豊平川の「豊平」も崩れた崖という意味だ▼われわれの足元の下には災厄があり、すぐにその恐ろしい顔を見せる。再認識しつつ力を合わせるときだろう。


by daisukepro | 2018-09-07 14:11 | 筆洗

友人を自宅にかくまっていると玄関に殺人者が現れた。何と答えるか。ただし、うそをつかずに 筆洗(東京)

友人を自宅にかくまっていると玄関に殺人者が現れた。何と答えるか。ただし、うそをつかずに。ベストセラー『これからの「正義」の話をしよう』で、著者のマイケル・サンデル教授が取り上げている問いだ▼うそをつくという行為に極めて厳しい哲学者カントの道徳を語る際のこの問いに、教授は巧みな解答を示している▼<一時間前、ここからちょっと行ったところにあるスーパーで見かけました>などと真実を言うこと。へ理屈にも思える。だが、うそは避けられ、友人を危機から救えるかもしれない▼福田淳一財務事務次官が一昨日の会見で語った言葉もまた実に巧みだ。セクハラの事実を問われ「報道が出ること自体が不徳のいたすところ」。公開された音声については「福田の声に聞こえるという方が多数おられるのは事実だ」。言葉を重ねながら、後で明確にうそだと追及されそうなところはない。さすがエリートというべきか▼ただ、こちらは道徳を貫くための発言とは違う。身内か自身を守るためにみえる。週刊誌の記事について「事実と異なる」としながら、潔白を思わせる言葉がない。逆に不信感が募る▼舞台はほかでもない財務省である。こうして国民の信用を失って増税など痛みを伴うような政策は実行できるのか。真実を語りつつ、危機にさらされた信用も守る。そんなうまい言葉はなさそうにみえる。
by daisukepro | 2018-04-20 10:38 | 筆洗

筆洗 2018年4月19日

筆洗2018年4月19日

 作家の永井荷風が軍国主義に染まっていく世の中の変化について書いている。「際立って世の中の変わりだした」のはいつか。それは「霞が関三年坂のお屋敷で白昼に人が殺された」あたりからだろうという▼三年坂の殺人とは一九三二(昭和七)年、犬養毅首相が首相官邸で青年将校に暗殺された五・一五事件である。そこからの大きな変化を「誰一人予想できなかった」。時代の変わり目はその時点では気がつかぬものか▼この話に五・一五を大げさに持ち出すのをためらう。なれど、いつか振り返ったとき、その罵声が時代の変わり目だったということにならぬかを心配する。幹部自衛官が十六日夜、国会近くの路上で民進党国会議員に向かい「おまえは国民の敵だ」などと罵声を浴びせかけた問題である▼意に沿わぬ政治家への脅し、圧力と言わざるを得ない。イラク日報問題などでの自衛隊批判への不満だろうか。しかし、国民が選んだ国会議員への罵声はそのまま国民への罵声である。その行為によって、どちらが、「国民の敵」になってしまうかにどうして気がつかなかったか▼厳正な処分と対策が必要である。今回は一人だった。これが二人、三人にならぬとは限らぬ。今回は声だった。これが拳やナイフに変わらぬとは限らぬ▼「四・一六事件」。後になってあれが時代の変わり目だったと考え込んでみても遅い。


by daisukepro | 2018-04-20 10:30 | 筆洗